今注目の「Direct to Consumer (D2C)」は時代と共に実店舗のあり方を変えられるか?

ショッピングの新たなカタチ ダイレクトトゥコンシューマー D2C

今注目の「Direct to Consumer (D2C)」とは何か?

Direct to Cunsumer”を直訳すれば「顧客まで直接」という意味になります。販売・管理は全て自社運営のECサイトで行う為、店舗を運営する費用を削減し、高品質で見ただけでは訴求方法が難しい商品に何らかの付加価値をつけて販売することも可能です。又特筆する部分は「顧客の心を動かす仕掛けが組み込まれたブランド体験に重きを置くビジネスモデル」であるということ。

同じような形態にSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)がありますが、根本的に違う点は、店舗を持たず自社運営のECサイト上でのみ販売している点であること・ブランドづくり、商品の企画、プロモーション、そして販売まで全て1社で担うビジネスモデルです。

顧客にとって共感・驚きを体験できる場の創発は大きなインパクトを生み、究極のベネフィットや信頼にも答えられます。このD2Cのスタイルは、実は日本ではまだ知られていない比較的新しいビジネスモデルです。

アメリカではかなりのスピードで大きな影響力を持ち始めている為、今後、日本でも確実に広がることが予想されます。今回は、このD2Cで成功した事例を紹介しながら、新しいビジネスのかたちについてご説明していきます。

アパレル関係者なら絶対に注目しておきたい成功例:EverlaneとBonobosの場合

まずは、D2Cのビジネスモデルを取り入れて大成功を収めた、2つのブランドを紹介します。

1.アパレル業界のタブーに挑戦し続けるブランド : Everlane
【原価も工場もすべて見せる『透明なブランディング戦略】

「ファッションに労働者が殺される!」
今や全世界の問題として、ESG投資家、投資企業からも懸念の声が上がる、第三国、生産地の加重労働の実態。こんな時代だからこそ「共感・共鳴」を受け大成功をおさめている企業が「
Everlane」

ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)の頭文字をとった略称で、環境、社会、ガバナンスの3つの観点から、社会を、そして世界をいかにして持続可能にしていくかを考え、そして行動しようという世界的な取組みですが、これを投資に応用するのがESG投資です。

原価まで公開し、あえて逆のことを行うことでブランドアイデンティを広く認知させた成功例です。徹底的な透明性によって、顧客からの信頼を獲得しました。原価だけでなく内訳までも公開してしまう独自のやり方は、顧客自らセール品の価格を決めるという常識はずれなことまでやってのけました。セール品についてもユニークな販売方法を導入しています。顧客が3段階のセール価格の中から、自分で好きな価格を選ぶのですが、これは企業と顧客とのコミュニケーションにも繋がっています。顧客も一緒に企業を育てているような、連帯感を感じることができる方法とも言えます。

Direct to Consumer (D2C) エバーランス

Direct to Consumer (D2C) エバーランス

2.超特化型専門店:Bonobos
【リアル店舗は売らず試着アドバイスのみ!「ショールーミング進化版」】

「究極の目的買いの顧客に的を絞った」販売スタイルの成功例です。チノパン等のメンズパンツのみに絞って商品を展開しており、カスタマーサービスに力を入れることで、オンライン上の接客を行っていることも注目したいポイントです。「どれにしようか迷う」という現代の消費者心理にも合致した新しいビジネスモデルとも言えます。

ダイレクトトゥコンシューマー D2C

これらの成功事例には、中小企業やスタートアップ企業で応用できるヒントが隠されています。通常のECサイトではできない、独自の強み・コンセプト・アイデア・サービスベネフィットなど、商品以外のブランド価値が確立できれば、賢い消費者は確実にD2Cを選ぶようになるでしょう。

では、「D2Cの強み」は具体的にどのような部分に表れているのでしょうか?

ダイレクトトゥコンシューマー(D2C)の強みと成功できる理由

D2Cの強みは3つあります。

①ブランドビジョンを伝えられること
②顧客との密接な関係が構築できること
③顧客データの収集・蓄積が可能であること

仲介業者を挟まずに、企画→製造・販売、まで全てを自分たちで行うため、会社の想い(ビジョン・思想)を購入者に直接届けることができます。企業のコンセプトを正しく伝えることは、ブランディングの成功にも繋がっていくため、そのメリットは非常に大きいと言えるでしょう。

余分な仲介が入らないことで、顧客との密接な関係を構築することもできます。直接やりとりをすることで、信頼関係もダイレクトに育てることができるのです。また、最初から終わりまで、全てのデータを収集し蓄積していけるので、既存の商品の改良や新商品開発にも大いに役立てることができます。

これからの時代、「情報」の価値は模倣困難であるが故、最重要な経営資源です。情報が商品となる時代において、データ収集の面でも大きなメリットがあるD2Cは、今後もさらに飛躍的な進歩を見せてくれるはずです。

従来の店頭販売の常識が古くなった理由

店頭販売の役割は大きく分けて3つあります。

①商品を購入する場所としての役割
②広告としての役割。
③顧客とのロイヤリティ構築

昔のように実店舗以外に購入する場所が無かった時代とは異なり、今はどんなものでもネットで簡単に購入することができます。購入場所としての役割の重要度はかなり薄れてきたと言わざるを得ません。そして、広告としての役割も、現代社会のようにSNSが広く普及している場合は、実店舗を構えずとも、広範囲のユーザーに向けて効果的な情報発信をすることも可能です。

自社メディアを活用することもできますし、人気のSNSサービスと連携しながら、多数のファンを獲得することもできます。実際にD2Cで成功している企業は、このSNS広告を非常に効果的に利用しています。フォロワーを数多く獲得できれば、それは見込み顧客を獲得することにも繋がっていくわけです。そして、顧客とのロイヤリティ構築に関しても、「顧客が求めていること」に応えることが先決と言えます。

欲しいものが手に入るまで、じっと待てる消費者は少なくなってきています。商品を購入しようと決めたのに、「他の店舗にはありますが、うちでは取り扱っておりません」とか「こちらのサイズは品切れです」といった答えが返ってきて、買う気が無くなってしまった経験はないでしょうか?

欲しいもの(色・デザイン・サイズ)の在庫が無い店舗では、顧客の信頼を勝ち取ることができません。かと言って、全ての顧客の好みに対応するために、あらゆる商品を取り揃えておくことは非効率的です。上記のような理由から、従来の実店舗のあり方を見直さなくてはいけないことが分かります。今までのやり方を続けていては時代に乗り遅れてしまうのです。

これからの実店舗はどうあるべきか?

「実店舗が無駄ならば、全部やめてしまえばいい!」

こんな風に思われたでしょうか?しかし、正しい答えは「やめる」ことではなく、新しく「創る」ことにあります。記事の冒頭で触れたチノパン専門の商品展開をしている「Bonobos」を例に挙げれば、実店舗を「販売しない場所」として定義し直したことによって成功しています。

商品を販売せず、「展示場」として設定したことにより、実際の商品の質感や色・デザインを物理的に確認できる場を設けました。全商品・全サイズを常備し、顧客は気に入った該当商品をネットで購入します。在庫管理や販売を全て自社のECサイト上で行うので、店舗ごとに大量の在庫を抱えたり、売り切れてしまったり…という問題を避けることができます。

そして、購入の手続きを丁寧にガイドすることで、ECサイトでの購入スタイルに慣れてもらうこともできるのです。

新たなツールの使い方まで教えてくれる、お買いもの教室のようなワクワクする場となった店舗があれば、ECでの購入を躊躇していたユーザーの心を掴むこともできます。これからの時代、実店舗は商品をECサイトで安心して買えるように手助けする場、であることが求められているのかもしれません。これまでの実店舗の常識とは違う、新たな存在意義が見出されてきたと言えるでしょう。

大手ブランドには真似できないD2Cのビジネスモデルをどう応用するか

D2Cのやり方は、大手ブランドではなかなか導入できないモデルです。生産から販売までの伝統的な枠組みを壊すことのできない大手企業にとってはD2Cのやり方に合わせていっそのこと全てを変えてしまうか、あるいは全く利用しないか、のどちらかの選択しかできないからです。

良い部分が分かっていてもなかなか導入できない、というのが現状かもしれません。アパレル企業というよりもIT企業に近いD2Cのビジネスモデルは、これまでの常識を覆す大胆なやり方です。アパレル業界で長らく”常識”とされていた時代遅れな風習に囚われることなく、現代社会に即したやり方で最新のテクノロジーを活かした最適なシステムを手にしたD2Cは、既存アパレルにとって脅威となることでしょう。

顧客にとって大切なのは、「共感・驚き」です。「顧客の心を動かす仕掛けが組み込まれた新たなビジネスモデル」が成功しないわけはありません。大手ブランドでは真似できなくても、中小企業やスタートアップ企業だからこそ、導入できるチャンスがここにはあります。現代の消費者に合ったビジネスモデルについて、改めて考えてみるのも良いかもしれません。

成功するためには学び続けることが必要です。新たな知識を取り入れ、良い部分をどんどん吸収しながら、最強のブランドを作り上げていきたいですね!

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