25年間で「7割減!?」紳士服業界の市場規模、しかし大手4社の業績が堅調である謎?

紳士服市場の低落にもはや歯止めがかからない

総務省の家計調査によると、1991年のピーク時に2万5000円を超えていた1世帯当たりのスーツ(背広、ネクタイ、ワイシャツの合計)の年間支出金額は、2016年に6959円と3割以下にまで縮小しています。以下のグラフから見える傾向は、なんとこの25年間で、7割減となっている事実。

確かに団塊世代の引退や、新しい働き方の浸透により、ファッションのカジュアル化が進んだ背景はありますが、「7割減」という数字には驚きますよね。しかし、こうした厳しい市場環境の中、紳士服大手の4社「青山商事」「アオキホールディングス」「コナカ」「はるやま」の業績はむしろ堅調です。

「なぜか?」
今回は、その背景にあるビジネスモデルと、市場の厳しさを逆手にとって、新たな価値を提案している紳士服業態を例にだし、ビジネスの可能性をお届けしたいと思います。

『答えは、「選択と集中」ではなく「非関連多角化」にあり』

業績が悪くなると、真っ先に上がる経営のセオリー「選択と集中」採算が悪い業態を撤退させる。これは経営上真っ当な手段だと思います。しかし、いうならば、変化激しい時代において守りの姿勢で現状維持を貫く経営手法。ここからは何も新しいことは生まれません。ただ、無策に身を削って維持しているに他なりません。ここに私はアンチテーゼを唱えています

【過去BLOGより抜粋】
「選択と集中?」本当にその考えが正しいのか?

大手4社の中で、業界2位、AOKIのビジネスモデルに注目しました。AOKIは、これまで「洗えるスーツ」や「ノーアイロンシャツ」といった機能性衣料の品揃えの強化を展開し、多様化する消費者ニーズに対応してきました。しかし、急激な市場変化には対応できず、紳士服だけみれば非常に厳しい状況です。これは、AOKIに限らず、他3社にも当てはまリます。

しかし、いち早く時代の流れを読み、意外な別事業を展開している事実はご存知でしょうか?

例えば、皆さんも「カラオケ(コート・ダジュール)」、複合カフェ(快活クラブ)などの娯楽施設を利用したことはありますか?又、ブライダルであれば結婚式前の一選択肢として(ア二ヴェルセル)」など、これら全く本業とはかけ離れている企業を傘下に納め、ビジネスを軌道に乗せています。

本来多角化は「関連多角化」が自分たちの強みを補完する上で重要な戦略とされ、「非関連多角化」は企業文化や業界慣習、価値観の違いなど「リスク」が高いと言われています。セレクトショップと飲食を加えるといった感覚ではなく、そもそもターゲットとする顧客がまるで違うわけです。

更に、経営陣は、「脱スーツ宣言」を掲げ、他事業の買収で得た事業を本業に「チェンジ」させる大胆発言までしています。これが現在の、紳士服業態の実情です。他3社も同じく生き残りをかけ、非関連多角化競争を繰り広げているのです。

ある意味、これまでの成功体験を捨てて、新たなことにチャレンジする!本来、大手企業は様々なしがらみがあり、フットワークが重くなる傾向にありますが、その点、先見性と行動力といったビジネスセンスさえ感じます。

『しかし、今後の展開に私なりの課題感を持っています。』
多角化した事業をそれぞれ、別々に運営するだけではなく、それぞれの顧客、例えばファミリーといったセグメントや横のつながりから、本業のスーツと繋げることができないか?これらをデジタルマーケティング施策を用い、シームレスな囲い込みができるのではないか?そんなビジネスモデルを考えてしまいます。

下記、画像のようなシームレス化を・・・。簡易にイメージをまとめてみました。

豊かな「体験」を提供できる企業が顧客を惹きつける

次にこの厳しい市場環境を見極めて、「オーダーメイド」のハードルを下げて顧客に体験価値を提供し、注目されている紳士服業態があります。

オーダーメイドのスーツといえば、昔から紳士の憧れの対象であり、成功者であることを示す証のような役割を持っている方も多いのではないでしょうか?2016年に入ってから、紳士服量販店(青山商事・AOKI・ユニクロなど)が次々と若年層(20代から30代)向けのオーダーシステムを展開し注目されてきました。価格や規模こそ違いますが、「自分に合ったもの」を求める消費者の心を掴み、売れ行きは好調です。

ではなぜ、今「オーダーメイド」が改めて注目されているのでしょうか。

老舗のテイラーなどは敷居が高くて入りづらい、という若い消費者にとって、気軽にそれほど高価格ではない自分に合ったスーツを手に入れられる、という事実は大きな満足感に繋がります。

  • 似合わないけど安いから買った 
  • 身体に合っていないけど、仕方ないから着ている 
  • スーツなんてどれも同じ

スーツやフォーマルな衣服への不満を抱えていた消費者にとって、自分の身体に合ったスーツを(手が届く範囲の金額で)手に入れられることは、これまでになかった「驚き」「嬉しさ」につながります。

答えはそこ!現代の消費者が求めているものは、充実感や満足感という体験価値です!

新たな戦略で急成長している「オーダー」スーツブランド

スーツ、フォーマルを中心とした業界において、近年目覚ましい進歩を遂げている2つのブランドを取り上げます。

ひとつはメンズファッションレーベル「La Fabric」。もうひとつは、リアル店舗とスマホアプリを融合させたコナカの新ブランド「DIFFERENCE (ディファレンス)」です。

この2つのブランドが持つ強みにフォーカスして、現代の消費者が求める価値の在り方について探っていきたいと思います。既存のビジネスモデルとは違う、「デジタルシフト」を経営に組み入れた新しい業態。オムニチャネル化させたシームレスな顧客体験を提供した企業の実例として見ていきましょう。

「デジタル」の力で可能にした潜在ニーズへの対応 【その1】

「La Fabric (ラ・ファブリック)」

2014年2月にブランドを立ち上げ、2016年からは対前年度300%の成長を記録した業界初の「クラウド連携型カスタムオーダーメイドサービス」です。

実店舗をほとんど持たず、オンライン中心で販売を行っています。限定的にポップアップ店舗を出店するなどし、着実に注目を集めてきました。オンライン上でスーツやシャツをカスタムオーダーでき、商品ラインナップは600種類超。デザイン、生地、サイズを自由に選ぶことができ、その組み合わせは約15億通りになります。

ターゲット層は20歳代~30歳代のITデバイスやインターネットが身近なミレニアム世代、デジタルネイティブ世代の顧客を惹きつけたる理由がありました。

【La Fabricの特徴】

  • 最高の品質を最適な価格で 
  • 良いものへのこだわりをオープンに 
  • 未来へつながる暮らしのために

という3つのキーワードで「自分らしいスーツをオンラインで自由にカスタマイズ」できるとあります。生地の素材まで分かるようなズームされた写真。ジャケットを着用したイメージが分かるようなトルソー付きの写真など。オンラインでも安心して注文できるような工夫が随所に感じられます。

「来店(リアル店舗)→採寸(30分~60分)→注文(オンライン)→2回目以降の注文(オンライン)」

これが購入までの流れですが、会員情報さえ登録をしておけば、以降来店せずに購入も、帰宅後の購入も可能です。注文から約4週間で完成。生地・デザイン・サイズのすべてを「自分オリジナル」で注文できます。価格は商品のラインナップにもよりますが、だいたい5万円前後といったところでしょうか。万が一、届いた商品に欠陥があった場合は、商品受け取り後30日以内であれば修繕も可能。

サイズが合わない場合には、最大5000円分までのお直し代を負担してくれるという、アフターサポートも明確に定められています。また、注文確定後12時間以内であれば変更の対応も可能という点も、安心感がありますね。

現在は紳士服のラインのみですが、今後は婦人服も検討しているようです。今後の展開からも目が離せません。現在の店舗数は東京と神奈川で合わせて7店舗となっていますが、今後どのような形態で事業を拡大していくのか、興味深いですね。

「デジタル」の力で可能にした潜在ニーズへの対応 【その2】

「DIFFERENCE (ディファレンス)」 

「DIFFERENCE(ディファレンス)」はリアル店舗とスマホアプリを融合させたコナカの新ブランドです。佐藤可士和さんがプロデュースしたブランドとして話題になりましたね。

構想は2年以上。コナカ渾身のプロジェクトと言えそうです。ターゲット層は、ファッションで個性を出したい20~30代のビジネスパーソン。人とは違うスーツを他のブランドとは全く異なる方法でオーダーできる顧客体験、が提供されています。わかりやすく、簡単で、いつでもどこでも自由にオーダーできるという体験は、新たな可能性を感じさせてくれます。

表生地だけでも140~160種類(シーズンにより異なる)が用意されており、裏地も胴裏が約40種類、袖裏が約20種類から選べるようになっています。

【DIFFERENCEの特徴】

「今までの常識とすべてが違う全く新しいオーダースーツ体験、はじまる」これがキーワードです。

「来店予約(オリジナルアプリまたはPCから)→来店&採寸(90分~120分)→注文→2回目以降の注文(オンライン)」

購入までの流れは上記の通りです。もちろん来店予約なしでも利用は可能のようですが、予約時に色々な情報(自身の体型や好みなど)を入力しておくと、その情報を参考に、ショップでコンシェルジュのように事前準備をした上でパーソナルな対応をしてくれるようです。

来店すると、専用ボックスに入れたサンプルをもとに接客をしてくれるという徹底ぶり。高級テイラーに来たような気持ちにさせてくれる空間でもあります。初回の受け取りは自宅までの配送も可能ですが、仕上がりの確認をしてもらう上でも店舗での受け取りがオススメされていました。

完成まで最短で約2週間というスピーディーさは魅力です。メンズ・ウィメンズともに展開しており、価格は3万5000円からとなっています。生地の質により5段階で価格設定されています。アプリ上では、CGで製作された生地とスーツの画像を確認し、生地の質感と仕上がりイメージをリアルに体感できます。サイト上の「よくある質問」コーナーの充実も安心感がありますね。

コナカ渾身の新事業ということで、今後さらに出店していく予定のようです。メリットは小スペースで展開が可能なこと。便利さ、合理性だけでなく、おもてなし感や高級感、特別感を入れ込み、効率よく上質のものをスマートに変える体験価値(ユーザーエキスペリエンスを)は嬉しいですね。

消費者の心を掴む戦略に必要な2つのキーワード:パーソナライズとオリジナリティ

 アパレル業界は非常に苦しい状況に直面しています。しかし、紳士服で展開されている新たな事例を見れば、やり方次第で新たな可能性を見出すことが可能です。

そこに共通するのは「デジタルシフト」の恩恵です。

右肩下がりの厳しい市場を乗り越えるには、消費者・顧客視点サービスが欠かせません。ニーズをつかみ「最高の体験」を提供することができれば、価値あるブランドとして成長し続けることができます。他社の事例をエッセンスとしてとらえ、あなたの会社に合った独自の戦略を実践してください。現状に満足せず、新しい取り組みを「小さく育てて継続」してください。視界が広くなり、色んな気づきを得られるはずです。

「走りながら事業を変革する」弊社が掲げる支援のカタチです。

次世代ビジネスを推進する各種メニュー の特徴と期待効果

『ビジネスの可能性を広げる!』
既知以上の価値を提案・推進する多様な活動領域

「現状維持は後退!」多様化・複雑化する時代では「戦略」も例外なく同じ
弊社では時代のニーズ・課題に対して「継続的にメニューのアップデート・シナジーの可能性」を研究しております。

アパレルコンサルティング

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