アパレル業界にMDはもう必要ないのか?最新「Al MD」の実力と課題

・デジタルシフト化の目的は細分化した顧客ニーズの理解とパーソナライズ施策(個別最適化)
・「なぜ売れない服を作り続けるのか?」業界課題からみる「AI MD」への期待
・人工知能はここまで進化した!2大「AI MD」企業が提供している解析サービス
・AIは人の仕事を奪う!?そもそも使いこなせなければ意味がない!今後
求められる仕事のあり方、役割とは?

アパレルMDのデジタルシフト化

ビジネスの「デジタルシフト化」が叫ばれて久しいが「ついにここまできたか」と感じている方も多いはず。そんな折、在庫焼却問題、それによる環境問題が明るみなり、様々な媒体でアパレル業界が抱える深刻な闇を目にするようになりましたね。

今回は「リデュース」「リユース」「リサイクル」といった消費者側の取り組みではなく、

「なぜ売れない服を作り続けるのか?」
企業側の視点に立った課題認識、解決への道筋、テクノロジーの活用など最新の動向と今後の展開を独自の見解で掘り下げていきます。

アパレル業界の課題からみる「AI MD」への期待

過去25年間を見てみると、国内アパレル市場は40%ほど縮小しています。その一方で、供給量は増え続け、市場の縮小と供給量のアンバランスさが、とてつもない数の余剰在庫を生み出しています。国内だけでも、余剰在庫は14億点に上るとも・・・。

企業にとって、値引きをし、大量の在庫を抱えることはリスクでしかありません。強く永く、この業界で生き残るためには、これまでの常識を変えた施策が必要。そんなアパレル業界の救世主になりそうな新たな技術として注目されているのが、AIを活用したマーチャンダイザー(MD)、すなわち「AI MD」の存在です。

「AI MD」とは文字通り、人工知能(AI)を活用したマーチャンダイザー(MD)。AI MDの主な役割を簡単に説明すると、トレンドを大きく外すことによって生じる余剰在庫の廃棄や、値引きを抑制することにあります。これにより、プロパー消化率が押し上げられるという論理。

これまでのMDは何が問題だったのか?AI MDが可能にした新たな視点

これまでのMDは結果を基にした傾向分析にすぎない。POS(販売時点情報管理)データを解析する方法では、アイテムごとの投入数量、実績傾向、価格帯、店頭でのVMDなど個別ブランドの事情を色濃く反映した結果からの示唆しか得られません

AI MDによる解析は、ビックデータを基に実際の消費者のトレンドを相対的に分析することで、特定のブランドへの依存が少なくなり、市場全体の動向を正確に把握することができます。より広く、より深く分析することで、課題の本質を見極めるスピーディー且つ効率的な経営が可能になります。

具体的にどのような事が可能になるのか?

例えば、婦人服で考えればワンピースやオールインワンがトレンドとなった場合、ブラウスやカラーシャツはトレンドから外れる傾向になります。

柄では、ドットやチェックが流行すると、花柄のアイテムが売れなくなりますね。色についても、その時々のトレンドがある為、トレンドを外れた色はセール常連色となる傾向にあります。このようなトレンドをビッグデータをもとに解析していくことで「今何が求められているのか?」需要予測し、発注精度を飛躍的に高める事が可能になるわけです。

「AI MD」を実務でスタートさせている主な企業

大手を中心に「AI」への期待の高さが伺えますが、中の人間がこれまでの業務と住み分けして「AI MD」本来の力をどれだけ引き出す事が出来るのか?ここは人が必ず介在する部分。資本にものを言わせて導入したものの使いこなせなければ「AIの飼い殺し」になる事は明白です。

以下にいち早く取り入れている企業をいくつか抜粋しました。今後の成果に注目です。

三陽商会は、画像AIエンジンを用いたファッショントレンド解析サービスを展開するファッションポケットと業務提携し、AI活用の推進による売り上げ・粗利の最大化および在庫の適正化が目的。又三陽商会は、オフラインの流入導線、滞在時間、といった購買以前の動きを視覚化し最適な顧客体験を提供するABEJAとの業務提携を発表している。

マークスタイラーは人工知能開発のパイオニア手掛ける「SENSY」と業務提携しこれまでCtoCで培ってきたビックデータを生かして新たなマーチャンダイズ業務のシステム開発に向けた実証実験を開始した。実施期間は3月中旬までの予定。

ストライプインターナショナルでは発注数量を前期より2割削減。これまで過剰な在庫を解消しようと、慢性的な値引き合戦を繰り返してきたが、過剰在庫減で利益率の向上路線に「AI 」を活用して効率的な販売システムへと移行する。

目的はプロパー消化率の改善にあり!

事業の収益性を定義する経営指標は、多岐にわたりますが「AI MD」に求める大きな役割は「プロパー消化率」の改善にあるとみています。

洋服というナマ物を扱うアパレル業界は、感覚(センス)を大切に考える部分が多分にあります。そのため、他業種と比較してみても、主観や経験が重視されやすく、需要予測の過ちはそのまま過剰在庫の発生と常態化したセールへと繋がります。

これまで、実績データに頼ったり、主観に基づく感性を重視したり、モノの良さを追求したりと試行錯誤を繰り返してきましたが多様化した時代において、従来型のMDロジックは効果を発揮できず、余剰在庫を増やし続けてきました。

AI MDが相手にしているのは世界中に溢れているビッグデータからの解析。その莫大なデータの中から最適解を見極める事による業界課題への新たな挑戦でもあるわけです。

人工知能はここまで進化した!
2大「AI MD」企業が提供している解析サービス

<ファッションポケット>
(参考)企業URL: http://www.fashionpocket.jp

ファッションポケットが展開するファッショントレンド解析サービス「AI MD」は、世界各地のリモートコンピューターによって、ソーシャルメディアを含む世界中のファッションメディアから、最新のコレクションやファッショントレンド、写真を24時間自動で収集します。これらのファッションビッグデータ画像を解析し、カラーや着こなしなどのトレンドを予測することで、企業はその結果を商品企画などに活用することができるというサービスです。期初の需要予測の精度やプロパー消化率の向上、 機会ロス・値引・余剰在庫の抑制を図り、売上・粗利の最大化と在庫の効率化が可能になります。

ファッションポケットでは、
○アパレル企業向けトレンド解析ソリューション:「AI MD PRO/STANDARD」
○アパレル企業向けトレンドレポートサービス:「AI MD BASIC」
○リテイラー・デベロッパー企業向けIoTサービス:「AI SMART CITY」
○スマート・ターゲット広告サービス:「AI ADS」
という4つのAIサービスを展開。

<SENSY MD>
(参考)企業URL https://sensy.ai

SENSY株式会社が独自開発する、感性を解析するパーソナル人工知能「SENSY」を活用した需要予測サービス。顧客データ、商品データ、購買データなどの情報をインプットして、人工知能SENSYが顧客ユーザー一人ひとりの感性、好みを学習していきます。顧客ユーザーひとりひとりに対して、商品アイテム別の好みを「AIスコア」として計算可能。これまでは担当者の経験と感に依存していたMD計画も、顧客をパーソナルに解析することで科学的なMD計画を策定可能に。売上を左右する複雑な因果関係を人工知能により解析し、販売後の結果をフィードバックすることで、人工知能が継続的に学習するサイクルを創ります。SENSY MDは商品の最適な発注・配分計画から販売後フォローアップまでの一連のオペレーションを支援するサポートプロダクト。

SENCYでは、
○SENSY CLOSET         
○SENCY BOT
○SENCY MD       
○SENCY Marketing Brain(パーソナライズDM・メール)
○SENCY CLOSET(接客・販売)
など多数のサービスを展開。

AI活用にはデメリットもある!?

AIが導き出したトレンド情報を他社も利用すれば「商品ラインナップが均質化したり同質化したりするのではないか」そんな不安や課題。確かにこれも一理あります。

AIがはじけ出した傾向は今後の方針を決める為の大きな目安です。そこから解釈を広げ、最終的な調整を行うのは私たち人間の役割です。

大きなトレンドをリアルタイムで把握したうえで、企業独自の色をそこに加えていくことで、「新たな価値を生み出す」これが効果を最大限享受できる本質です。

データの取り方や使い方を工夫し、いかに最新技術を活用するか?結局のところ、トレンドの中で、どのようにブランドの個性を発揮していくか、という点には人間のスキル・編集力に依存します。データ収集や分析は機械に任せ、より深く頭を使って付加価値を創りだす人材にチェンジしなければ、それはMDではなく、ただの収集屋と変わりませんね。

AI MDがデザイン分野にも進出!?

「AIはデザイナーにはなれない」AIは何もない所から形を生み出すようなクリエイティビティ―は備えていません。

しかし、傾向分析からの予測という業務は実現可能。AIが市場の傾向を解析し、デザインのテイストや素材、色、柄の組み合わせを企画書にして、その企画書をもとにデザイナーやMDが商品を作るといった活用方法であれば十分価値を生み出します。

既に、これを実験的に行っている企業は存在します。今後は「AIプロデューサー」というような新たな職種も登場するかもしれませんね。

AIの進化に伴い、人間の役割はより明確になる

「AIによって仕事が無くなるのか?」この議論は枚挙にいとまがありません。これはそうともいえますが、そうであるともいえません。要はAIの役割が増えることで、我々の働き方自体を変える必要があります。

手作業では実現できなかったレベルの解析を「AI MD」が可能にすることで、業務はこれまでとは比較にならないほど効率化していきます。商品を買いに来る人を予測することも、AIなら可能です。

何度も繰り返しますが、AIは学習しながら成長しますが、何を学習させるかを決めるのは私たちです。市場予測の精度を上げるために必要なデータを選択したり、AIが算出した数字から何を読み取るかは人間の仕事です。オリジナリティーやクリエイティビティ―がより重要になることは明らかです。

今後のファッションとAIの関係はどう変化していくのか

AIを活用すれば様々なデータをもとに解析が可能になります。そのため、着ているものだけでなく、住んでいる家やインテリア、コスメ、よく行くレストランなどからライフスタイルを分析することも可能になるでしょう。

ライフスタイル軸から集めたデータ傾向を、個々のニーズに合わせてシームレスな提案をするということもできるでしょう。コンサートや結婚式二次会などのデータが得られれば、フォーマルなファッションやコーディネートを提案することができますし、旅行の情報が入ってくれば、ターゲットが求めるであろう旅先でのファッションを提案することもできます。

消費者を分析するということは、個々のライフスタイル全体を知るという事です。今後も、業界を超えたシームレスな連携、コラボはますます広がり、境目のないビジネス転換がより一層を広がっていくはずです。

まとめ:創造性のある戦略は人が創りだす!

どんな時代でも必要なのは「人」の力。事業を横断的、多角的に俯瞰できる編集力を持った人材が必要です。これまでのやり方を踏襲するだけでは完全にアウト。デジタルに任せられる部分と、人間が率先して行わなければならないことを見極め、プロジェクトの進行を管理できるノウハウ、スキルが必要です。

新たな技術を積極的に学び取り入れようとする姿勢が、企業の発展に繋がる時代です。知らないものを避けるのではなく、知ろうとする意識があれば、新たな可能性はどんどん広がっていくはずです。

決して資力が豊富な大企業だけの議論ではなく、中小企業が生き残る上で必要な情報としてお伝えしました。弊社が今後のデジタルシフト化に一役買う事ができれば幸いです。これを機に新たな一歩を踏み出してみませんか?

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